北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所 危機分析・対応部門・准教授
同 創成研究機構ワクチン研究開発拠点・准教授
同 ワンヘルスリサーチセンター・副センター長
北海道大学獣医学部を卒業後、同獣医学研究科博士課程修了(博士(獣医学))。
松野博士は、2011年から米国NIAIDにて研究員として勤務した後、北海道大学大学院獣医学研究院講師を経て、2020年から同人獣共通感染症リサーチセンター(現・人獣共通感染症国際共同研究所)の講師・准教授として、危機分析・対応部門の部門長を務める。2023年からは北海道大学ワンヘルスリサーチセンター副センター長を兼任。主にマダニが媒介する新興ウイルス感染症の研究を国内外の諸機関と連携して推進している。
<コラボレーションに寄せた一言コメント>
既に開始しているパスツール研究所ネットワークと我々北海道大学の人獣共通感染症に関する共同研究が、日本パスツール研究所の設立によって、効果的に推進されることが期待されます。日仏両国のみならず、各国のパスツール研究所との関係を強固なものとし、各地での公衆衛生向上に資する研究を展開したいと強く願っています。
シャハラギム・タジバフシュ教授(幹細胞・発生学研究室)は、カナダのカールトン大学でウイルスの分子生物学の博士号を取得後、パスツール研究所でのポスドクを経て、2001年に独立し、幹細胞がどのようにして臓器や組織を作り、再生するのかを研究する「幹細胞・発生学研究室」を設立した。彼の研究室の目的は、骨格筋がどのように構築され、どのように疾病や外傷後に再生されるかを理解するために、発生過程や出生後の幹細胞の特性を調べることである。特に、休止状態、ニッチ、自己再生、対称的/非対称的細胞分裂、再生、加齢などに焦点を当てている。彼の研究室では、マウスの遺伝学的手法を用いて、筋幹細胞集団が機能において驚くほど多様であることを示し、胚におけるモジュール設計が、筋疾患における筋の病態におけるモザイク反応の一因であるかもしれないという仮説を導き出した。
タジバフシュ教授は、EMBO会員、元発生・幹細胞生物学部長、LabEx (“Laboratory of Excellence”) REVIVEコンソーシアム (幹細胞に関する28の研究室、2011-2024年)の共同ディレクターを務める。様々な科学協議会(例:フランス筋疾患協会の副会長など)、いくつかの科学諮問委員会のメンバーであり、4つの科学雑誌の編集委員を務める。複数のEUコンソーシアム(FP6, EuroStemCell; FP7, EuroSyStem, Optistem, NotchIT)に参加し、ルイ・パスツール優秀賞(Institut Pasteur、2017年)やフランス科学アカデミーを含むいくつかの賞を受賞。競争的資金を多数獲得(EU、ANR、FRM、ARC、2度のERC Advanced Grantなど)。2010年、2015年、2020年、フランスのHCERES(研究・高等教育評価評議会)は、タジバフシュ教授の研究室をA+(最高評価)と評価した。
理化学研究所 生命医科学研究センター空間免疫制御理研ECL研究ユニット
理化学研究所・生命医科学研究センター空間免疫制御ECL研究ユニットでは、感染症や炎症性疾患における応答制御について免疫学の観点から研究を行っています。博士課程卒業後すぐにフランス政府給費を頂いてパリ・パスツール研究所のDr. James Di Santoの研究室に留学し新しい免疫細胞である3型自然リンパ球を同定・報告、2011年Chargé de rechercheを経て帰国、現職に至ります。帰国後も継続してDr James Di Santoと共同研究を行っており、世界に多くある研究機関の中でもパスツール研究所は今でも一番近い存在です。現在は、パスツール研究所ニューカレドニアとの共同研究も開始しており、この共同研究を皮切りに今後は世界に広がるパスツール研究所のネットワークを介した新しい視点と技術の融合による更なる研究の発展を目指します。
【Collaborationに向けた一言】
この共同研究プロジェクトでは、理研の持つ細菌叢解析や代謝物解析のノウハウとパスツール研究所が得意とするゲノムワイド関連解析を統合することで、ニューカレドニアにおける糖尿病と肥満に関与する重要な因子を特定することを目的とし研究を進めます。理研とパスツール研究所の相互の国際的ネットワークを強化し科学的関係を相乗的に発展させることができれば、科学研究だけではなく新たな治療戦略を提案する機会となり、将来的な研究コミュニティーを担う研究者の育成にもつながると考えます。
国立研究開発法人国立国際医療研究センター(NCGM)
研究所 熱帯医学・マラリア研究部 熱帯医学研究室長
ラオス国立パスツール研究所(IPL) 寄生虫学研究室責任者
石上盛敏博士は、帯広畜産大学(農学修士 2000年)、高知医科大学(博士(医学) 2004年)を修了し、その間は肺吸虫や住血吸虫などの分子系統解析を行った。その後、国立国際医療センター(IMCJ)研究所(2010年からNCGM研究所)で、アジア地域の薬剤耐性マラリアと無症候性マラリア原虫感染に関する分子遺伝疫学研究を行っている。2014年より、NCGM海外臨床研究拠点・ラオス保健省ラオス国立パスツール研究所(IPL)のJICA/AMED SATREPSプロジェクト(研究代表者:NCGM狩野繁之)の長期専門家として、現地で寄生虫症の研究とラオス人若手研究者の育成に従事してきた。そして2023年より、ラオスSATREPS新規プロジェクトの研究代表者を務め、マラリアとメコン住血吸虫症の排除、並びにタイ肝吸虫症の制御を目指して研究を続けている。NCGMとパスツール研究所は、2017年7月からMoUを結んで共同研究体制を築き、マラリアを中心とする寄生虫症研究で顕著な成果を挙げてきている。
今後さらに日本パスツール研究所(IPJ)と協働して、IPJ-NCGM-IPLのネットワーク体制の充実に貢献していきたい。
熊本大学大学院生命科学研究部 副研究部長 /消化器内科学講座 教授
熊本大学病院 消化器内科 科長、光学医療診療部 部長 (2020.6.1~現在)
熊本大学病院 副病院長 (2021.4.1~現在)
名古屋市立大学大学院医学研究科 客員教授 (2020.6.1~現在)
名古屋大学 未来社会創造機構 客員教授 (2018.12.1~現在)
名古屋市立大学医学部を卒業後、名古屋市立大学病院、名古屋第二赤十字病院を経て、米国立保健研究所(NIH)に客員研究員として留学。帰国後、名古屋市立大学病院にて講師、臨床分子情報医学助教授(准教授)、肝疾患センター副センター長(現センター長)、病態医科学講座教授、中央臨床検査部部長を歴任したのち、2020年より熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学講座教授を務める。
島川祐輔博士は、2004年慈恵医大卒業後、手稲渓仁会病院、国境なき医師団、長崎大学を経て、西アフリカ・ガンビアの英国医学研究会議研究所(MRC)を拠点にロンドン大学衛生学熱帯医学大学院(LSHTM)で疫学修士号及び博士号を取得、2014年よりパリ・パスツール研究所。新興疾患疫学部門のウイルス肝炎エリミネーション・グループを率いる。専門はアフリカの肝炎対策。現在、仏語圏アフリカ(セネガル・ブルキナファソ・マダガスカル)でのB型肝炎母子感染予防プロジェクト(NeoVac)と、B型肝炎診断簡易化プロジェクト(PROTECT-B)で研究代表者を務める傍ら、外部専門家として世界保健機関(WHO)の肝炎対策にも関わる。
京都大学総長主席学事補佐
京都大学医学研究科 附属ゲノム医学センター センター長・教授
パスツール研究所・京都大学国際共同研究ユニット 研究コーディネーター
京都大学理学部を卒業後、大阪大学医学部医科学修士課程を経て、京都大学医学研究科博士課程修了(医学博士 分子生物学)。
松田教授は、京都大学遺伝子実験施設助手、京都大学医学部医化学教室助手を経て、1998年より2007年までフランスパリ郊外のフランス国立ジェノタイピングセンター(CNG)の遺伝子同定部門の部長を歴任。2003年4月から京都大学医学研究科教授を併任、ヒト多因子型疾患の人種間比較解析に力を注ぎ、カナダのMcGill大学、フランスのパスツール研究所、INSERM、ボルドー大学などとの国際共同研究を精力的に推進している。
2016年11月からは、パスツール研究所と京都大学の国際共同研究ユニットの研究コーディネータを務めており、ウイルス感染症(デング熱、インフルエンザ、COVID-19など)の生命情報統合解析を進めている。加えて2023年1月より、日本パスツール財団代表理事・専務理事を務めている。2020年9月にフランス共和国より国家功労勲章シュヴァリエに叙された。
リチャード・ポール博士はオックスフォード大学で動物学の学士号を取得後、ロンドンのインペリアル・カレッジで医学・獣医学・農業昆虫学の修士号を取得し、オックスフォード大学でマラリア原虫(Plasmodium falciparum)の分子疫学に関する博士号を取得した。パスツール研究所でポスドクを務めた後、正職員の科学者として採用された。 ダカール・パスツール研究所に駐在し、マラリア原虫感染のヒト・リザーバーに関する疫学研究を主導した後、ラオスの水力発電ダムの公衆衛生評価プロジェクトを率いた。2010年からは、都市部の媒介性疾患であるデング熱と、そのリスクに関連する社会経済的、人口統計的、環境的要因に焦点を当て、標的介入ができるように取り組んでいる。併せて、都市環境で使用できる蚊の新しい制御方法の試験を行なっている。2015年より京都大学で公衆衛生学の講義を担当。2020年以降は、マダニ種の分布に及ぼす環境影響やマダニ媒介病原体の疫学に研究領域を広げている。
石井健教授(医師、医学博士)、東京大学医科学研究所国際ワクチンデザインセンター長。
1998年以来27年間にわたりワクチン研究開発に携わり、米国食品医薬局(FDA)における新薬治験審査員(7年間)を経て、大阪大学で基礎免疫研究(15年間)、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)でワクチン・アジュバント研究(9年間)に従事したほか、AMEDの戦略推進部長(2年間)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、GHIT Fund、CEPIにおけるアドバイザーを務めた。2019年より現職。
石井教授は、感染症および免疫学の基礎研究に貢献し、多数の著書のほか、定期刊行誌に250以上の論文を出版し、35,000の論文引用(H-index 84)、ワクチンやアジュバントに関連する50以上の特許を有する。また、日米におけるワクチン規制やワクチンの臨床前試験・臨床試験のガイドラインに策定に貢献している。
ジェームズ・ディ・サント教授は、コーネル医科大学とニューヨークのスローン・ケタリング研究所で医学士と医学博士号を取得し、アラン・フィッシャー博士(フランス、パリのネッケル病院)とクラウス・ラジェフスキー博士(ドイツ、ケルンの遺伝学研究所)のもとで博士研究員としての研修を修了したのち、1999年、パリのパスツール研究所に自身の研究室を設立し、現在はパスツール研究所免疫学部門教授兼フランス医学研究所(Inserm)研究ディレクターを務めている。ディ・サント教授の主な科学的関心は、マウスとヒトの適応免疫リンパ球(T細胞、B細胞)と自然リンパ球(ILC細胞、NK細胞)の発生と機能における細胞生物学、サイトカイン、転写因子、シグナル伝達経路の分野である。彼の研究室では、一連のヒト化免疫系マウスモデルを開発し、前臨床段階でのヒト免疫の詳細な解析を可能にし、ヒト感染症の治療に応用している。最近では、鼻腔スワブサンプルを用いた統合システム免疫学的アプローチを開発し、健常人および呼吸器疾患患者におけるヒト粘膜免疫の評価を行っている。これは、石井健教授(東京大学医科学研究所国際ワクチンデザイン研究センター)との国際研究共同ユニット「粘膜イミュノミクス(Mucosal Immunomics)」にも応用される予定である。
理化学研究所 生命医科学研究センター(理研IMS)は、遺伝学、分子生物学、生化学、病理組織学などの包括的なアプローチにより、ヒトの健康や病気を研究する国際的にも有数の研究機関です。ニューカレドニア・パスツール研究所は、ニューカレドニア政府の支援を受けて運営されている研究機関で、フランス・パリに本部を置くパスツール研究所の分室の一つです。理研とパスツール研究所は1984年1月に包括協定を締結していますが、現在に至るまでそのほとんどは個々の研究者に限られていました。そこで、私たちは現在、パスツール研究所との国際的な共同研究をさらに促進するため、理研の競争的国際共同研究資金を活用した研究機関間の協議やワークショップなどを通じてお互いのネットワーク強化を開始しています。
近年、肥満と糖尿病の増加は、ニューカレドニアを含め、世界的に深刻な問題となっています。特に、ニューカレドニアでは12歳以下の子供の40%近くが肥満傾向にあり、2型糖尿病患者は14,000人以上にのぼります。そのため、ニューカレドニア政府は現在、肥満と糖尿病を予防するための研究を推進し主導しています。ニューカレドニアの先住民であるポリネシア人、メラネシア人、移民であるヨーロッパ人の間で肥満の有病率に大きな差があることから、肥満や糖尿病に対する感受性には遺伝的素因が関与していることが示唆されています。これまでの研究により、肥満には特定の微生物が誘発と制御に関与していることが明らかになってきました。よって、今後は肥満や糖尿病と関連する腸内細菌叢解析や免疫応答解析に加え、遺伝子背景の統合解析を行うことで、予防や治療に役立てることを目的としています。
AMED ASPIRE採択課題「パンデミックの5W1Hを理解するための研究」(研究代表者:東京大学医科学研究所・佐藤佳教授)は、米国NIAID「Center for Research on Emerging Infectious Diseases」採択課題である「Pasteur International Center for Research on Emerging Infectious Diseases (PICREID)」(研究代表者:パスツール研究所・Anavaj Sakubtabhai教授)のマッチングファンドです。我々はこれらのグラントの支援の元で、アジア・アフリカ地域におけるクリミア・コンゴ出血熱等の節足動物媒介性ウイルス感染症の研究を進め、技術移転や人材交流により共同プロジェクトを推進します。
2023年3月に国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(NCGM)にて、ラオス国立パスツール研究所とNCGMとの間で共同研究に関する合意文書の締結後、同年4月から「革新的技術を活用したマラリア及び顧みられない寄生虫症の制圧と排除に関する研究開発プロジェクト」が開始された。本プロジェクトは国際協力機構(JICA)と日本医療研究開発機構(AMED)の共同実施による地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の一つで、5年間のプロジェクトである。ラオス人民民主共和国(以下、ラオス)では、マラリア、メコン住血吸虫症、及びタイ肝吸虫症が、公衆衛生上の深刻な課題である。本プロジェクトの目的は、ラオスからマラリアとメコン住血吸虫症を排除し(elimination)とタイ肝吸虫症を制御(control)することである。マラリア排除を加速させるために、LAMP法と呼ばれる高感度のDNA診断技術を、ラオスのマラリア流行地域にある25ヶ所の郡病院へ導入する。これにより流行地域の病院の診断能力を強化し、標準的な診断方法では検出できない低密度原虫感染者を見つけ出し治療できる体制を確立する。メコン住血吸虫症の排除を加速させるために環境DNA分析の手法を用いて、寄生虫とその中間宿主貝の生息状況をより正確に理解できるようにする。環境DNA分析では、メコン川から採取した水検体を用いて、PCR法とLAMP法を用いて、メコン住血吸虫とその中間宿主貝のDNAの検出を行う。タイ肝吸虫症を制御するために、パルス電流技術を活用して淡水魚に感染しているタイ肝吸虫の被嚢幼虫(メタセルカリア)を殺す技術を研究開発する。このタイ肝吸虫の被嚢幼虫が感染した淡水魚を生食することでヒトが感染し、重度の慢性感染が胆管ガンの原因になると言われている。さらに中間宿主貝に食べさせることで貝の中で発育するメコン住血吸虫とタイ肝吸虫の幼虫の発育を阻害する特殊な飼料の研究開発も実施する。最後にこれら寄生虫疾患流行地域の住民を対象に、エコヘルス教育を実践し、住民が自ら感染予防行動を取り、持続的な感染予防行動が実施できるように促し、上記疾患の排除または制御を目指す。